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『幼児のための算数以前のさんすう』小林茂広 多賀出版(1981年)

前回からの続きです。ジーニアスたけのこ会のホームページにもありますが、諫山先生は小林茂広理学博士(香川大学名誉教授)から学ばれたそうです。今回はその小林博士の『幼児のための算数以前のさんすう』という本の序文を少し長いですが一部抜粋して紹介します。

「最近の幼稚園や保育所では早期教育の名のもとに、子どもの興味におかまいなく、加減算や幾何学的図形が教え込まれているようですが、これは困ったことだと言わねばなりません。

このような風潮を生んだのは、就学までにこれだけはマスターさせておかねば遅れをとると勝手に決めてかかる大人達の算数恐怖症や、よその子より早くと願う馬鹿げた競争心や虚栄心に他なりません。しかし、大人のこうした先を急ぐ気持ちから出る『教えこむ教育』あるいは『押しつけ学習』は結局、子どもを就学前にすでに算数嫌いにさせてしまう危険があると言っても過言ではありません。(中略)

たとえば、誰もがおかす最も基本的な誤りのひとつは、小さな子どもに100までの数を覚えこませようとすることです。100まで数えられること自体に意味のないことを大人は知るべきでしょう。なぜなら、数えられるということと、数の正しい概念を持つということとは全く別問題であるからです。たとえば、5という数は1が5こ寄り合って作られる数であるが、同時に2と3,1と4とでも作れるという認識を持つに至ること、これが5という数についての概念の一部を正確には握したということなのです。幼児期に算数を教えこむ必要はありません。しかし、あらゆる機会を捉えて5という数の生成を体得させること、これが私のいう幼児期のさんすうなのです。数の持つ神秘性や不思議さ、美しさ、そういうものに子どもの目を開かせて、数への興味を子どもの心の中に自然に芽ばえさせてあげること、もっと知りたいという気持ちを起こさせてあげること、それが算数以前のさんすう教育のめざすところなのです。

複雑なこと、技術的なことを子どもに教える必要は少しもありません。幼児の初期のさんすうは、数の面では片手、すなわち1から5までの数の熟知と、図形では丸や三角、四角などの基本的図形のは握(図形の分割と構成を含む)とで充分だということを私は力説したいのです。それから、もうひとつ私が強調したいのは、子どもには必ず、具体的な『物』』を与えて、その『物』を操作することによって数や図形の世界を自分の手で経験させなければならないということです。(後略)」

「科学的な思考を正しく伸ばすために、幼児にはクレヨンや鉛筆に親しむようにサイコロや知恵の板と棒を与えて、遊びを通して数や図形に慣れさせ、算数的なセンス(感覚)を身につけさせることがねらいなのです。ピアノや絵を習わせるのと全く同じように数理的な考え方を訓練させようという考え方があっても少しも不思議はないはずです。音楽的感覚や絵画的感覚と同じように、数理的な感覚も幼児から培い、磨きあげていくことができるはずだと私は信じています(略)」

40年以上前の文章ですが、現在でもとても重要な指摘であります。童学舎は幼児と言っても3、4歳のお子さんは募集しておらず幼稚園の年長さんぐらいからですが、この数理的な考え方の訓練というのは、小学校低学年くらいでも遅くはないと思います。こういった道しるべをもとに小学生の指導に取り組んでいます。